小倉百人一首
―歌がるたとして有名な歌集―
歌集。一冊。藤原定家撰。嘉禎元年(1235)ごろ成立。
天智天皇から順徳天皇に至る570年間の代表的歌人100人の歌各一首を年代順に配列したもの。
江戸時代には「歌がるた」として一般にも広く流布した。
別名『小倉山荘色紙和歌』『小倉百首』『百人一首』。
- 秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ(天智天皇)
- 春すぎて夏来にけらし白妙の 衣ほすてふ天の香具山(持統天皇)
- あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む(柿本人麻呂)
- 田子の浦にうち出でてみれば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ(山部赤人)
- 奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の 声きく時ぞ秋は悲しき(猿丸大夫)
- かささぎの渡せる橋におく霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける(中納言家持)
- 天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも(安倍仲麿)
- わが庵は都のたつみしかぞすむ 世をうぢ山と人はいふなり(喜撰法師)
- 花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに(小野小町)
- これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬも逢坂の関(蝉丸)
- わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人の釣船(参議 篁)
- 天つ風雲の通ひ路吹き閉ぢよ 乙女の姿しばしとどめむ(僧正遍照)
- 筑波嶺の峯より落つる男女川 恋ぞつもりて淵となりぬる(陽成院)
- 陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに 乱れそめにし我ならなくに(河原左大臣)
- 君がため春の野に出でて若菜つむ わが衣手に雪は降りつつ(光孝天皇)
- たち別れ稲葉の山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む(中納言行平)
- ちはやぶる神代もきかず竜田川 からくれなゐに水くくるとは(在原業平朝臣)
- 住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人めよくらむ(藤原敏行朝臣)
- 難波潟短き芦のふしの間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや(伊勢)
- わびぬればいまはた同じ難波なる みをつくしても逢はむとぞ思ふ(元良親王)
- 今来むと言ひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな(素性法師)
- 吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風を嵐といふらむ(文屋康秀)
- 月見ればちぢに物こそかなしけれ わが身ひとつの秋にはあらねど(大江千里)
- このたびはぬさもとりあへず手向山 紅葉のにしき神のまにまに(菅家)
- 名にしおはば逢坂山のさねかづら 人に知られでくるよしもがな(三条右大臣)
- 小倉山峰のもみぢ葉心あらば 今ひとたびの御幸待たなむ(貞信公)
- みかの原わきて流るる泉川 いつ見きとてか恋しかるらむ(中納言兼輔)
- 山里は冬ぞ寂しさまさりける 人目も草もかれぬと思へば(源宗于朝臣)
- 心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花(凡河内躬恒)
- 有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし(壬生忠岑)
- 朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪(坂上是則)
- 山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり(春道列樹)
- ひさかたの光のどけき春の日に 静心なく花の散るらむ(紀友則)
- 誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに(藤原興風)
- 人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香ににほひける(紀貫之)
- 夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月宿るらむ(清原深養父)
- 白露に風の吹きしく秋の野は つらぬき止めぬ玉ぞ散りける(文屋朝康)
- 忘らるる身をば思はず誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな(右近)
- 浅茅生の小野の篠原しのぶれど あまりてなどか人の恋しき(参議 等)
- 忍ぶれど色に出でにけりわが恋は 物や思ふと人の問ふまで(平兼盛)
- 恋すてふ我が名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか(壬生忠見)
- 契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山浪越さじとは(清原元輔)
- 逢ひ見ての後の心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり(中納言敦忠)
- 逢ふことの絶えてしなくばなかなかに 人をも身をも恨みざらまし(中納言朝忠)
- あはれとも言ふべき人は思ほえで 身のいたづらになりぬべきかな(謙徳公)
- 由良のとをわたる舟人かぢをたえ 行くへも知らぬ恋の道かな(曾禰好忠)
- 八重葎しげれる宿のさびしきに 人こそ見えね秋は来にけり(恵慶法師)
- 風をいたみ岩うつ波のおのれのみ くだけてものを思ふ頃かな(源重之)
- 御垣守衛士の焚く火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ(大中臣能宣)
- 君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな(藤原義孝)
- かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを(藤原実方朝臣)
- 明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな(藤原道信朝臣)
- 歎けきつつひとりぬる夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る(右大将道綱母)
- 忘れじの行末まではかたければ 今日をかぎりの命ともがな(儀同三司母)
- 瀧の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞えけれ(大納言公任)
- あらざらむこの世のほかの思ひ出に 今ひとたびの逢ふこともがな(和泉式部)
- めぐりあひて見しやそれともわかぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな(紫式部)
- 有馬山猪名の笹原風吹けば いでそよ人を忘れやはする(大弐三位)
- やすらはで寝なましものをさ夜ふけて かたぶくまでの月を見しかな(赤染衛門)
- 大江山生野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立(小式部内侍)
- いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな(伊勢大輔)
- 夜をこめて鳥のそらねははかるとも よに逢坂の関はゆるさじ(清少納言)
- 今はただ思ひ絶えなむとばかりを 人づてならでいふよしもがな(左京大夫道雅)
- 朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれ渡る瀬々の網代木(権中納言定頼)
- 恨みわびほさぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ(相模)
- もろともにあはれと思へ山桜 花よりほかに知る人もなし(前大僧正行尊)
- 春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそ惜しけれ(周防内侍)
- 心にもあらでうき世にながらへば 恋しかるべき夜半の月かな(三条院)
- 嵐吹く三室の山のもみぢ葉は 竜田の川の錦なりけり(能因法師)
- さびしさに宿を立ち出でてながむれば いづこも同じ秋の夕暮れ(良暹法師)
- 夕されば門田の稲葉おとづれて 芦のまろ屋に秋風ぞ吹く(大納言経信)
- 音に聞く高師の浜のあだ浪は かけじや袖の濡れもこそすれ(祐子内親王家紀伊)
- 高砂の尾の上の桜咲きにけり 外山の霞立たずもあらなむ(権中納言匡房)
- 憂かりける人を初瀬の山おろし はげしかれとは祈らぬものを(源俊頼朝臣)
- 契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり(藤原基俊)
- わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの 雲居にまがふ沖つ白波(法性寺入道前関白太政大臣)
- 瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ(崇徳院)
- 淡路島通ふ千鳥の鳴く声に いく夜寝覚めぬ須磨の関守(源兼昌)
- 秋風にたなびく雲の絶え間より もれ出づる月の影のさやけさ(左京大夫顕輔)
- 長からむ心も知らず黒髪の 乱れて今朝はものをこそ思へ(待賢門院堀河)
- ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる(後徳大寺左大臣)
- 思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪えぬは涙なりけり(道因法師)
- 世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(皇太后宮大夫俊成)
- ながらへばまたこの頃やしのばれむ 憂しとみし世ぞ今は恋しき(藤原清輔朝臣)
- 夜もすがらもの思ふころは明けやらで 閨のひまさへつれなかりけり(俊恵法師)
- 嘆けとて月やはものを思はする かこち顔なるわが涙かな(西行法師)
- 村雨の露もまだ乾ぬ真木の葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮れ(寂蓮法師)
- 難波江の芦のかりねの一夜ゆゑ 身をつくしてや恋わたるべき(皇嘉門院別当)
- 玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする(式子内親王)
- 見せばやな雄島の海人の袖だにも 濡れにぞ濡れし色はかはらず(殷富門院大輔)
- きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む(後京極摂政前太政大臣)
- わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らね乾くまもなし(二条院讃岐)
- 世の中は常にもがもな渚漕ぐ あまの小舟の綱手かなしも(鎌倉右大臣)
- み吉野の山の秋風さ夜ふけて ふるさと寒く衣うつなり(参議雅経)
- おほけなくうき世の民におほふかな わが立つ杣に墨染の袖(大僧正慈円)
- 花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり(入道前太政大臣)
- 来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ(権中納言定家)
- 風そよぐならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏のしるしなりける(従二位家隆)
- 人も惜し人も恨めしあぢきなく 世を思ふゆゑにもの思ふ身は(後鳥羽院)
- ももしきや古き軒端のしのぶにも なほあまりある昔なりけり(順徳院)
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関連リンク
- 百人一首(ウィキペディア)