古今和歌集
―我が国最初の勅撰和歌集―
平安初期の最初の勅撰和歌集。二〇巻。
延喜五年(905)醍醐天皇の勅命によって作られた。紀貫之、紀友則、凡河内躬恒、壬生忠岑の撰。延喜十三年頃の成立とされる。歌数約千百余首。
四季、恋以下十三部に分類して収めたもの。仮名序と真名序が前後に添えられている。特に仮名序は歌論としても優れている。
読み人しらずの時代の歌、六歌仙時代の歌、撰者時代の歌に大別され、それぞれに歌風の相違がみられる。短歌が多く、七五調、三句切れを主とし、縁語、掛詞など修辞的技巧が目だつ。
以後の勅撰集の規範となり、後代和歌の基調とされた。三代集の一。古今集。古今。
やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。世の中にある人、ことわざしげきものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、言ひいだせるなり。
花に鳴く鶯、水にすむかはづのこゑをきけば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。
力をもいれずして、天地をうごかし、目に見えぬ鬼神をもあはれとおもはせ、男女のなかをもやはらげ、たけきもののふの心をもなぐさむるは歌なり。(仮名序)
今の世の中、色につき、人の心花になりにけるより、あだなる歌、はかなき言のみいでくれば、色好みの家に、埋れ木の人知れぬこととなりて、まめなる所には花すすきほにいだすべきことにもあらずなりにたり。その初めを思へば、かかるべくなむあらぬ。(仮名序)
人まろなくなりにたれど、歌のこととどまれるかな。たとひ時うつりことさり、たのしびかなしびゆきかふとも、この歌のもじあるをや。
あをやぎの糸たえず、松のはのちりうせずして、まさきのかづらながくつたはり、とりのあと久しくとどまれらば、歌のさまをもしり、ことの心をえたらむ人は、大空の月を見るがごとくに、いにしへを仰ぎて、今を恋ざらめかも。(仮名序)
袖ひぢてむすびし水のこほれるを 春立つけふの風やとくらむ(巻一・2 紀貫之)
花の色はうつりにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに(巻二・113 小野小町)
夏と秋と行きかふ空のかよひぢは かたへすずしき風やふくらむ(巻三・168 みつね)
秋来ぬと目にはさやかに見えねども 風のおとにぞおどろかれぬる(巻四・169 藤原敏行朝臣)
秋はきぬ紅葉はやどにふりしきぬ 道ふみわけてとふ人はなし(巻五・287 よみ人しらず)
あさぼらけありあけの月と見るまでに よしのの里にふれるしら雪(巻六・332 坂上これのり)
わが君は千代に八千代に さゞれ石の巌となりて苔のむすまで(巻七・343 よみ人しらず)
むすぶ手のしづくににごる山の井の あかでも人にわかれぬるかな(巻八・404 つらゆき)
あまの原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山にいでし月かも(巻九・406 安倍仲麿)
波の花沖からさきて散りくめり 水の春とは風やなるらむ(巻十・459 伊勢)
郭公なくや五月のあやめ草 あやめもしらぬ恋もするかな(巻十一・469 よみ人しらず)
思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢としりせばさめざらましを(巻十二・552 小野小町)
しののめのほがらほがらとあけゆけば おのがきぬぎぬなるぞかなしき(巻十三・637 よみ人しらず)
いつはりのなき世なりせばいかばかり 人のことのはうれしからまし(巻十四・712 よみ人しらず)
久方の天つそらにもすまなくに 人はよそにぞ思ふべらなる(巻十五・751 もとかた)
空蝉はからを見つつもなぐさめつ 深草の山煙だにたて(巻十六・831 僧都勝延)
わが心なぐさめかねつ更級や をばすて山にてる月を見て(巻十七・878 よみ人しらず)
世の中は夢かうつつかうつつとも 夢ともしらず有りてなければ(巻十八・942 よみ人しらず)
われを思ふ人をおもはぬむくいにや わが思ふ人の我をおもはぬ(巻十九・1041 よみ人しらず)
みちのくはいづくはあれどしほがまの 浦こぐ舟のつなでかなしも(巻二十・1088)
- 古今和歌集(ウィキペディア)