万葉集
―我が国最古の歌集―
現存最古の和歌集。二〇巻。
数次の編集過程を経て成立したものと思われ、現存の形に近いものに最後にまとめたのは大伴家持、成立は奈良時代の末頃とされる。
歌体は短歌が大部分で、歌数は約4500首。歌の内容による分類は巻によって違うが、雑歌、相聞、挽歌の三分類を基調とする。
作者は天皇から庶民まで各階層にわたり、その地域も大和を中心に東国から九州にまで及んでいる。五世紀初頭の仁徳天皇時代から淳仁天皇の天平宝字三年(759)までの時代の歌を収める。
代表的歌人は、額田王、柿本人麻呂、高市黒人、山部赤人、山上憶良、高橋虫麻呂、大伴旅人、大伴家持など。表記はいわゆる万葉仮名を多く用いている。後代への影響はきわめて大きい。
あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る(巻一 額田王)
我が里に大雪降れり大原の古りにし里に降らまくは後(巻二 天武天皇)
験なきものを思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるらし(巻三 大伴旅人)
庭に立つ麻手刈り干ししき慕ぶ東女を忘れたまふな(巻四 常陸娘子)
瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆいづくより来りしものぞまなかひにもとなかかりて安寝しなさぬ(巻五 山上憶良)
み吉野の象山の際の木末にはここだも騒ぐ鳥の声かも(巻六 山部赤人)
宇治川を舟渡せをと呼ばへども聞こえざるらし楫の音もせず(巻七 作者不詳)
石激る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも(巻八 志貴皇子)
さ夜中と夜は更けぬらし雁が音の聞こゆる空に月渡る見ゆ(巻九 柿本人麻呂歌集)
ひさかたの天の香具山この夕霞たなびく春立つらしも(巻十 柿本人麻呂歌集)
朝影に我が身はなりぬ玉かきるほのかに見えて去にし子ゆゑに(巻十一 柿本人麻呂歌集)
能登の海に釣する海人の漁り火の光にい住く月待ちがてり(巻十二 作者不詳)
敷島の日本の国に人ふたりありとし思はば何か嘆かむ(巻十三 作者不詳)
信濃なる須賀の荒野にほととぎす鳴く声聞けば時過ぎにけり(巻十四 東歌)
あをによし奈良の都にたなびける天の白雲見れど飽かぬかも(巻十五 作者不詳)
石麻呂に我れ物申す夏痩せによしといふものぞ鰻捕り喫せ(巻十六 大伴家持)
あしひきの山谷越えて野づかさに今は鳴くらむ鴬の声(巻十七 山部赤人)
天皇の御代栄えむと東なる陸奥山に黄金花咲く(巻十八 大伴家持)
我が宿のいささ群竹吹く風の音のかそけきこの夕かも(巻十九 大伴家持)
新しき年の初めの初春の今日降る雪のいやしけ吉事(巻二十 大伴家持)