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竹取たけとりものがたり
―我が国最古の物語―

物語。一巻。作者未詳。平安初期の成立。

竹取のおきなが竹の中から得たかぐや姫が、五人の貴公子の求婚に難題を出して失敗させ、天皇の召しにも応ぜず八月十五夜に月の世界に去る、という内容で、羽衣説話を軸に、各種説話を配して物語化したもの。つくり物語の祖とされる。

竹取翁たけとりのおきな物語」「竹取の翁」「かぐや姫」とも。

 今は昔、竹取のおきなといふ者りけり。野山のやまにまじりて竹を取りつつ、よろづのことにつかひけり。名をば讃岐造さぬきのみやつことなむいひける。

 その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ひとすぢありける。あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸さんずんばかりなる人、いと美しうてたり。

 おきな言ふやう、「われ朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。子になりたまふべき人なめり」とて、手にうち入れて家へ持ちてぬ。妻のおうなに預けて養はす。美くしきことかぎりなし。いと幼ければに入れて養ふ。

 世界のをのこ、あてなるもいやしきも、いかで、このかぐや姫を得てしかな、見てしかなと、音に聞きめでてまどふ。そのあたりのかきにも家のにも、る人だにたはやすく見るまじきものを、夜は安きず、闇のに出でても、穴をくじり、垣間見かいまみ、惑ひあへり。

 さるときよりなむ、「よばひ」とは言ひける。

 かぐや姫の言はく、「月の都の人にて父母ちちははあり。片時かたときあひだとて、かの国よりまうでしかども、かく、この国には、あまたの年をぬるになむありける。かの国の父母ちちははのこともおぼえず、ここにはかく久しく遊び聞こえて、ならひたてまつれり。いみじからむ心地ここちもせず、悲しくのみある。されどおのが心ならず、まかりなむとする」と言ひて、もろともにいみじうく。