源氏物語
―我が国古典の最高峰―
平安中期の長編物語。五十四帖。紫式部作。11世紀初めの成立。
主人公光源氏の生涯を語る前編と、その子薫の半生を語る後編とからなる。通常、前編を二分し、三部構成としている。
第一部(桐壺~藤裏葉)から第二部(若菜上~幻)までは、多くの女性との交渉を中心に光源氏の栄華と苦悩の生涯を描く。
第三部(匂宮~夢浮橋)は、光源氏の死後、宇治を舞台に薫大将や匂宮など源氏の子孫と、宇治の八宮の姫君たちとの恋愛、そしてその悲劇を綴る。宇治を背景とする最後の十巻は「宇治十帖」と呼ばれる。
古典文学の最高傑作であり、後代への影響もきわめて大きい。古くは「源氏の物語」「光源氏物語」「紫の物語」などと呼ばれた。
現存の『源氏物語』は次の54巻からなる。
1.桐壺 2.帚木 3.空蝉 4.夕顔 5.若紫 6.末摘花 7.紅葉賀 8.花宴 9.葵 10.賢木 11.花散里 12.須磨 13.明石 14.澪標 15.蓬生 16.関屋 17.絵合 18.松風 19.薄雲 20.朝顔 21.少女 22.玉鬘 23.初音 24.胡蝶 25.蛍 26.常夏 27.篝火 28.野分 29.行幸 30.藤袴 31.真木柱 32.梅枝 33.藤裏葉 34.若菜上 35.若菜下 36.柏木 37.横笛 38.鈴虫 39.夕霧 40.御法 41.幻 42.匂宮 43.紅梅 44.竹河 45.橋姫 46.椎本 47.総角 48.早蕨 49.宿木 50.東屋 51.浮舟 52.蜻蛉 53.手習 54.夢浮橋
いづれの御時にか、女御・更衣あまた侍ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。
初めより我はと思ひ上がり給へる御方々、めざましき者におとしめそねみ給ふ。同じほど、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。
朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふつもりにやありけむ、いとあつしくなりゆき、もの心細げに里がちなるを、いよいよ飽かずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえ憚らせ給はず、世の例にもなりぬべき御もてなしなり。上達部・上人なども、あいなく目を側めつつ、いとまばゆき人の御おぼえなり。(桐壺)
所につけてをかしき饗応などしたれど、幼き心地は、そこはかとなく慌てたる心地して、
「わざと奉れさせ給へるしるしに、何ごとをかは聞こえさせむとすらむ。ただ一言を宣はせよかし」など言へば、
「げに」など言ひて、「かくなむ」と、移し語れども、ものも宣はねば、かひなくて、
「ただ、かくおぼつかなき御ありさまを聞こえさせ給ふべきなめり。雲の遥かに隔たらぬほどにも侍るめるを、山風吹くとも、またも必ず立ち寄らせ給ひなむかし」と言へば、すずろに居暮らさむも怪しかるべければ、帰りなむとす。
人知れずゆかしき御ありさまをもえ見ずなりぬるを、おぼつかなく口惜しくて、心ゆかずながら参りぬ。
いつしかと待ちおはするに、かくたどたどしくて帰り来たれば、すさまじく、なかなかなり、と思すことさまざまにて、人の隠し据ゑたるにやあらむと、わが御心の、思ひ寄らぬ隈なく、落とし置き給へりし習ひに、とぞ、本に侍める。(夢浮橋)
- 源氏物語(ウィキペディア)
- 紫式部(ウィキペディア)
- 作者別作品リスト:紫式部(青空文庫)