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啓発録けいはつろく
―橋本左内の自己規範・自己鞭撻のための手記―

安政の大獄によって二十六歳の生涯を終えた幕末の開明派志士橋本左内さない(1834~59)十五歳のときの手記。

自己規範・自己鞭撻の書であり、彼の思想や行動の根幹を成す。
「稚心を去る」「気を振う」「志を立つ」「学に勉む」「交友をえらぶ」の五項目からなる。

稚心ちしんを去るを以てさむらひの道にる始めとぞんさうらふなり。(稚心を去る)

気とは、人に負けぬ心立こころだてありて、恥辱のことを無念に思ふ処よりおこ意地張いきばりの事なり。ふるふとは、折角せっかく自分と心をとゞめて、ふるふるおこし、心のなまり油断ゆだんせぬやうに致すなり。(気を振う)

こころざしを立つるとは、この心の向ふ所を急度きっと相定め、一度ひとたび右の如く思ひ詰めさうらへば、いよいよ切にその向きを立て、常々つねづねその心持こころもちを失はぬやうに持こたへ候事さうらふことにてさうらふ。(志を立つ)

がくとは、ならふと申す事にて、すべてよき人すぐれたる人の善きおこなひ、善き事業を迹付あとづけして、習ひまゐるをいふ。(学に勉む)

べんと申すは、力をきはめ、打続うちつづき推し候処さうらふところの気味これ有るにて、何分なにぶん久しきを積み思ひを詰め申さずさうらはでは、万事こうは見え申さずさうらふ。(学に勉む)

世の中に益友えきゆうほど有り難く得難えがたき者はなく候間さうらふあひだ一人ひとりにてもこれ有らば、何分なにぶん大切にすべし。(交友をえらぶ)