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こん著聞ちょもんじゅう
―世俗説話集の代表作―

鎌倉中期の説話集。二十巻。たちばなの成季なりすえ著。建長六年(1254)成立。

前代の日記、記録、説話集などを基礎資料に、平安中期から鎌倉初期の日本の説話700余編を、神祇、政道、文学など30部に分類し、年代順に収めたもの。

貴族説話から庶民説話まで幅広い内容を含む。『今昔物語集』 『宇治拾遺物語』と並び、三大説話文学のひとつ。

 ある所に強盜入たりけるに、弓とりに法師をたてたりけるが、秋の末つかたのことにて侍けるに、門のもとに柿木のありける、したにこの法師かたて矢はげて立たるうへより、うみ柿のおちけるが、この弓とりの法師がいたゞきにおちて、つぶれて散々にちりぬ。

この柿のひやひやとしてあたるを、かいさぐるに、なにとなくぬれぬれとありけるを、はや射られにけりとおもひて、おくしてけり。

かたへの輩に云やう、「はやく痛手を負て、いかにものぶべくも覺ぬに、この頸うて」といふ。「いづくぞ」と問へば、「頭を射られたるぞ」といふ。

さぐれば、何とはしらず、ぬれわたりたり。手に赤く物つきたれば、げに血なりけりとおもひて、「さらんからにけしうはあらじ。ひき立てゝゆかん」とて、肩にかけて行に、「いやはや、いかにものぶべくも覺えぬぞ。たゞはや首を切れ」と、しきりにいひければ、いふにしたがひて打ちおとしつ。

さて、その首をつゝみて、大和國へもちて行て、この法師が家になげ入て、しかじかいひつることゝて、とらせたりければ、妻子泣き悲しみて見るに、さらに矢の跡なし。

「むくろに手ばしおひたりけるか」ととふに、「しかにはあらず。このかしらの事ばかりをぞいひつる」といへば、いよいよかなしみ悔れどもかひなし。

をくびやうはうたてきものなり。さ程の心ぎわにて、かく程のふるまゐしけんおろかさこそ。(巻十二)