水無瀬三吟
―宗祇・肖柏・宗長の三人による優れた連歌集―
連歌集。一巻。宗祇・肖柏・宗長作。長享二年(1488)成立。
後鳥羽院の離宮であった水無瀬宮に奉納した百韻が収められている。格調高く、連歌史上もっとも優れた作品と評価されている。
別名『水無瀬三吟何人百韻』。
- 雪ながら山本かすむ夕べかな 宗祇
- 行く水とほく梅にほふさと 肖柏
- 川風に一むら柳春見えて 宗長
- 舟さす音もしるきあけがた 祇
- 月や猶霧わたる夜に殘るらん 柏
- 霜おく野はら秋は暮れけり 長
- なく蟲の心ともなく草かれて 祇
- かきねをとへばあらはなるみち 柏
- 山ふかき里やあらしに送るらん 長
- なれぬすまひぞさびしさもうき 祇
- 今更にひとり有る身をおもふなよ 柏
- うつろはんとはかねてしらずや 長
- 置きわぶる露こそ花に哀れなれ 祇
- まだ殘る日のうち霞むかげ 柏
- 暮れぬとや鳴きつゝ鳥の歸るらん 長
- 深山をゆけばわく空もなし 祇
- はるゝまも袖は時雨の旅衣 柏
- わが草枕月ややつさん 長
- いたづらに明かす夜おほく秋更けて 祇
- 夢にうらむる荻の上風 柏
- 見しはみな古郷人の跡もうし 長
- 老の行方よなににかゝらん 祇
- 色もなき言の葉をだに哀れしれ 柏
- それも友なる夕暮の空 祇
- 雲にけふ花ちりはつる嶺越えて 長
- きけば今はの春のかりがね 柏
- おぼろげの月かは人も待てしばし 祇
- かりねの露の秋の明けぼの 長
- 末野なる里ははるかに霧立ちて 柏
- 吹きくる風はころもうつ聲 祇
- さゆる日も身は袖うすき暮毎に 長
- たのむもはかなつま木とる山 柏
- さりともの此の世の道はつきはてて 祇
- 心ぼそしやいづちゆかまし 長
- 命のみ待つことにするきぬぎぬに 柏
- なほ何なれや人の戀しき 祇
- 君を置きてあかずも誰をおもふらん 長
- そのおもかげににたるだになし 柏
- 草木さへふるき都の恨みにて 祇
- 身のうき宿も名殘こそあれ 長
- たらちねのとほからぬ跡になぐさめよ 柏
- 月日の末や夢にめぐらむ 祇
- 此の岸をもろこし舟のかぎりにて 長
- 又生まれこぬ法をきかばや 柏
- あふまでとおもひの露の消え歸り 祇
- 身を秋風も人だのめなり 長
- 松むしのなく音かひなきよもぎふに 柏
- しめゆふ山は月のみぞすむ 祇
- 鐘に我たゞあらましのね覺めして 長
- いたゞきけりな夜な夜なの霜 柏
- 冬がれのあしたづわびてたてる江に 祇
- 夕しほ風のとほつ舟人 柏
- 行方なき霞やいづくはてならん 長
- くるかた見えぬ山ざとのはる 祇
- 茂みよりたえだえ殘る花おちて 柏
- 木の本わくるみちの露けさ 長
- 秋はなどもらぬ岩やも時雨るらん 祇
- こけの袂も月はなれけり 柏
- 心あるかぎりぞしるきよすて人 長
- をさまる波に舟いづる見ゆ 祇
- 朝なぎの空に跡なき夜の雲 柏
- 雪にさやけき四方のとほ山 長
- 嶺の庵木の葉ののちも住みあかで 祇
- さびしさならふ松風の聲 柏
- 誰か此のあかつきおきをかさねまし 長
- 月はしるやの旅ぞかなしき 祇
- 露ふかみ霜さへしをる秋の袖 柏
- うす花すゝきちらまくもをし 長
- うづらなくかた山暮れてさむき日に 祇
- 野となる里もわびつゝぞすむ 柏
- かへりこば待ちしおもひを人やみん 長
- うときもたれかこゝろなるべき 祇
- むかしよりたゞあやにくの戀の道 柏
- わすられがたき世さへうらめし 長
- 山がつになど春秋のしらるらん 祇
- 植ゑぬ草葉のしげき柴の戸 柏
- かたはらにかきほのあら田返しすて 長
- 行く人かすむ雨のくれがた 祇
- やどりせん野を鴬やいとふらん 長
- さ夜もしづかにさくらさくかげ 柏
- とぼし火をそむくる花に明け初めて 祇
- 誰が手枕に夢は見えけん 長
- 契りはやおもひたえつゝ年もへぬ 柏
- 今はのよはひ山もたづねじ 祇
- かくす身を人はなきにもなしつらん 長
- さてもうき世にかゝる玉の緒 柏
- 松の葉をたゞあさ夕のけぶりにて 祇
- 浦曲のさとよいかにすむらん 長
- 秋風のあらいそ枕ふしわびぬ 柏
- 鴈なく山の月更くるそら 祇
- 小萩はらうつろふ露も明日やみん 長
- あだの大野をこゝろなる人 柏
- 忘るなよかぎりやかはる夢うつゝ 祇
- おもへばいつをいにしへにせん 長
- 佛たちかくれては又出づる世に 柏
- かれし林も春風ぞふく 祇
- 山はけさいく霜夜にかかすむらん 長
- けぶり長閑に見ゆるかり庵 柏
- いやしきも身ををさむるは有りつべし 祇
- 人におしなべ道ぞたゞしき 長
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