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古事記伝こじきでん
―本居宣長による『古事記』の注釈書―

古事記』の注釈書。四十四巻。本居宣長もとおりのりなが著。

寛政十年(1798)六十九歳の年に完成。宣長の生前に刊行されたのは十七巻までで、残りは文政五年(1822)に刊行。

古事記』について本文校訂・訓み方・語釈を行った書。宣長の学問の集大成。

古事記伝十六之巻
  神代十四之巻
故爾詔天宇受賣命、此立御前所仕奉、猨田毘古大神者、專所顯申之汝送奉。亦其神御名者、汝負仕奉。是以猨女君等、負其猨田毘古之男神名而、女呼猨女君之事是也。

かれここに、天宇受売命あめのうずねのみことりたまはく、「この御前に立ちて仕へ奉りし、猨田毘古大神さるたびこのおほかみは、もはあらはし申ししいまし送り奉れ。またその神の御名みなは、汝負ひて仕へ奉れ」のりたまひき。是を以ちて、猨女君等さるめのきみら、其の猨田毘古の男神の名を負ひて、女を猨女君さるめのきみと呼ぶ事是也。

コノ御前ニ立チテ云々。コノは、カノと云むが如し。先に天降り坐しし時の事をサスなり。

【中昔の物語などにも、カノと云べきを、コノと云ること多し。】

又此ノ時猿田毘古ノ大神、大前ミマヘハベり坐スを、タゞに指シて詔ふともすべし。

○猨田毘古ノ大神。書紀に、自名告ミナノリ賜ふ言にも、大神オホカミとあり。本より尋常ヨノツネならぬ神にこそ坐シつらめ。

モハラとは、他神アダシカミ得問エトハざりしを、此ノ宇受賣ノ命たゞヒトリ、よく問顯トヒアラハせる意なり。其ノ處にも、專汝モハライマシ云々とあり。

顯申アラハシマヲセルとは、彼ノ大神の御名をも、又其ノ出居イデヰ賜へる所以ユエをも、問聞トヒキゝて顯せるを云。上に顯白其少名毘古那神、所謂久延毘古云々、とあるに同じ。マヲスは、云々シカジカマヲせるを云。

【顯に附ケて云辭には非ず。】

書紀に、天鈿女アメノウズメ還詣カヘリマヰリテ報狀アリサママヲスとあるに當れり。