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愚管抄ぐかんしょう
―我が国三大史論書のひとつ―

愚管抄
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史論。七巻。歌人で天台座主をつとめた慈円じえん(1155~1225)著。承久二年(1220)成立。

神武天皇から順徳天皇までの歴史の大要を説き、著者の史観を述べたもの。歴史の推移を導く「道理」を説いている。

『神皇正統記』(北畠親房)、『読史余論』(新井白石)とともに、わが国の三大史論書といわれている。

 年ニソヘ日ニソヘテハ、物ノ道理ヲノミ思ツヾケテ、老ノネザメヲモナグサメツヽ、イトヾ、年モカタブキマカルマヽニ、世中モヒサシクミテ侍レバ、昔ヨリウツリマカル道理モアハレニオボエテ、神ノ御代ハシラズ、人代トナリテ神武天皇ノ御後、百王トキコユル、スデニノコリスクナク、八十四代ニモ成ニケルナカニ、保元ノ乱イデキテノチノコトモ、マタ世継ガモノガタリト申モノモカキツギタル人ナシ。少々アリトカヤウケタマハレドモ、イマダエミ侍ラズ。

ソレハミナタヾヨキ事ヲノミシルサントテ侍レバ、保元以後ノコトハミナ乱世ニテ侍レバ、ワロキ事ニテノミアランズルヲハバカリテ、人モ申ヲカヌニヤトヲロカニおぼえテ、ヒトスヂニ世ノウツリカハリオトロヘクダルコトハリ、ヒトスヂヲ申サバヤトオモヒテ思ヒツヾクレバ、マコトニイハレテノミ覚ユルヲ、カクハ人ノオモハデ、道理ニソムク心ノミアリテ、イトヾ世モミダレヲダシカラヌコトニテノミ侍レバ、コレヲ思ツヾクル心ヲモヤスメント思テカキツケ侍也。(巻第三)

 コノヤウニテ世ノ道理ノウツリユク事ヲタテムニハ、一切ノ法ハタヾ道理ト云二文字ガモツナリ。其外ニハナニモナキ也。

ヒガコトノ道理ナルヲ、シリワカツコトノキハマレル大事ニテアルナリ。コノ道理ノ道ヲ、劫初こうしよヨリ劫末こうまつヘアユミクダリ、劫末ヨリ劫初ヘアユミノボルナリ。

コレヲ又大小ノ国大小ノ国ノハジメヨリヲハリザマヘクダリユクナリ。コノ道理ヲタツルニ、ヤウヤウサマサマナルヲ心得ヌ人ニコヽロヱサセンレウニ、セウセウ心ヱヤスキヤウカキアラハシ侍ベシ。

一、冥顕みようけん和合シテ道理ヲ道理ニテトヲスヤウハハジメナリ。コレハ神武ヨリ十三代マデカ。

二、冥ノ道理ノユクユクトウツリユクヲ顕ノ人ハヱ心得ヌ道理、コレハ前後首尾ノタガヒタガヒシテ、ヨキモヨクテモトヲラズ、ワロキモワロクテモハテヌヲ人ノヱ心得ヌナリ。コレハ仲哀ヨリ欽明マデカ。

三、顕ニハ道理カナトミナ人ユルシテアレド、冥衆ノ御心ニハカナハヌ道理ナリ。コレハヨシト思テシツルコトノカナラズ後悔ノアルナリ。ソノ時道理ト思テスル人ノ、後ニヲモヒアハセテサトリ知也。コレハ敏達ヨリ後一条院ノ御堂ノ関白マデカ。

四、当時サタシヌル間ハ、我モ人モヨキ道理ト思ホドニ、智アル人ノイデキテ、コレコソイハレナケレト云トキ、マコトニサアリケリト思返ス道理ナリ。コレハ世ノ末ノ人ノフカクアルベキヤウノ道理ナリ。コレマタ宇治殿ヨリ鳥羽院ナドマデカ。

五、初ヨリ其儀両方ニワカレテヒシヒシト論ジテユリユクホドニ、サスガニ道理ハ一コソアレバ、其道理ヘイヽカチテヲコナフ道理ナリ。コレハ地体じたいニ道理ヲシレルニハアラネド、シカルベクテ威徳アル人ノ主人ナル時ハコレヲ用ル道理也。コレハ武士ノ世ノ方ノ頼朝マデカ。

六、カクノゴトク分別シガタクテ、トカクアルイハ論ジアルイハ末定ニテスグルホドニ、ツイニ一方ニツキテヲコナフ時、ワロキ心ノヒクカタニテ、無道ヲ道理トアシクハカライテ、ヒガコトニナルガ道理ナル道理ナリ。コレハスベテ世ノウツリユクサマノヒガ事ガ道理ニテ、ワロキ寸法ノ世々ヲチクダル時ドキノ道理ナリ。コレ又後白河ヨリコノ院ノ御位マデカ。

七、スベテハジメヨリヲモヒクワダツルトコロ、道理ト云モノヲツヤツヤワレモ人モシラヌアイダニ、タヾアタルニシタガイテ後ヲカヘリミズ、腹寸白ナドヤム人ノ、当時ヲコラヌトキ、ノドノカハケバトテ水ナドヲノミテシバシアレバ、ソノヤマイヲコリテ死行ニモヲヨブ道理也。コレハコノ世ノ道理ナリ。サレバ今ハ道理イフモノハナキニヤ。(巻第七)