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武士道ぶしどう
―欧米でベストセラーとなった新渡戸稲造の日本文化論―

新渡戸にとべ稲造いなぞう(1862~1933)の英文著作。明治32年(1899)アメリカで出版され、翌年日本でも刊行された。

新渡戸は武士階級の道徳的あり方を律してきた武士道こそが、単に武士階級にとどまらず、日本人の人間形成における普遍的規範となってきたことを強調している。

本書は英語圏国民の間で愛読されたのみでなく、ドイツ語版、ポーランド語版をはじめ各国語に翻訳された。また、アメリカ・ルーズベルト大統領の愛読書であったことは有名である。

第一章 武士道とは何か
 武士道は、日本の象徴である桜花にまさるとも劣らない、日本の土壌に固有の華である。わが国の歴史の本棚の中におさめられている古めかしい美徳につらなる、ひからびた標本の一つではない。

 それは今なお、私たちの心の中にあって、力と美を兼ね備えた生きた対象である。それは手にふれる姿や形はもたないが、道徳的雰囲気の薫りを放ち、今も私たちを引きつけてやまない存在であることを十分に気づかせてくれる。

 武士道をはぐくみ、育てた、社会的条件が消え失せて久しい。かつては実在し、現在の瞬間には消失してしまっている、はるか彼方の星のように、武士道はなおわれわれの頭上に光を注ぎつづけている。

 封建制度の所産である武士道の光は、その母である封建制度よりも永く生きのびて、人倫の道のありようを照らしつづけている。(奈良本辰也訳)

 私がおおまかに武士道シバルリーと表現した日本語の言葉は、その語源において騎士道ホースマンシップよりももっと多くの意味合いをもっている。ブ・シ・ドウとは字義どおりには、武・士・道である。戦士たる高貴な人の、本来の職分のみならず、日常生活における規範をもそれは意味している。

 武士道は一言でいえば「騎士道の規律」、武士階級の「高い身分ノーブル・オブリジエに伴う義務」である。(奈良本辰也訳)