司馬遷
―『史記』をもとに人間と世界を探究した名著―
武田泰淳(1912~1976)著。
昭和18年(1943)日本評論社刊。
第一編「司馬遷伝」では宮刑という辱めに耐えて記録への執念に生きた司馬遷を描いている。著者の司馬遷観が巧みに表現されている。
第二編「『史記』の世界構想」では、史記的世界について「絶対持続」という独特な歴史観が示される。
史記の世界を凝視し、人間と世界を探究した名著である。
第一篇 司馬遷伝
司馬遷は生き恥さらした男である。士人として普通なら生きながらえる筈のない場合に、この男は生き残った。口惜しい、残念至極、情なや、進退谷まった、と知りながら、おめおめと生きていた。
腐刑と言い宮刑と言う、耳にするだにけがらわしい、性格まで変るとされた刑罰を受けた後、日中夜中身にしみるやるせなさを、噛みしめるようにして、生き続けたのである。そして執念深く「史記」を書いていた。
「史記」を書くのは恥ずかしさを消すためではあるが、書くにつれかえって恥ずかしさは増していたと思われる。
第二篇 「史記」の世界構想
「史記」の問題にしているのは、史記的世界全体の持続である。個別的な非持続は、むしろ全体的持続を支えていると言ってよい。
史記的世界は、あくまで空間的に構成された歴史世界であるから、その持続も空間的でなければならぬ。
先にのべた、「世家」の自壊作用、相互中断作用にしても、すべては史記的世界全体の絶対持続を支え満すものである。(持続)
忍び得ぬ悲しみ。忍び得ぬ悲しみを以て司馬遷は、匈奴問題を見守っていたのである。彼が悲しみを以て見守っていたのは、この問題ばかりではない。世界全体である。(匈奴問題)
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