赤光
―斎藤茂吉の処女歌集―
斎藤茂吉(1882~1953)の第一歌集。大正2年(1913)10月東雲堂書店刊。834首。制作の逆年代順に配列している。
改選『赤光』は大正10年(1921)11月東雲堂書店刊。改選版では年代順に戻し、改作と削除によって760首になった。
恋愛と離別を歌った「おひろ」、母の死を悼む「死にたまふ母」の二大連作がとくに有名。この歌集は作者の名を一躍有名にし、芥川龍之介、佐藤春夫をはじめ文壇にも影響を与えた。
おひろ
夜くれば小夜床に寝しかなしかる面わも今は無しも小床も
浅草に来てうで卵買ひにけりひたさびしくてわが帰るなる
ひつたりと抱きて悲しもひとならぬ瘋癲学の書のかなしも
ほのぼのと目を細くして抱かれし子は去りしより幾夜か経たる
しら玉の憂のをんな我に来り流るるがごと今は去りにし
かなしみの恋にひたりてゐたるとき白ふぢの花咲き垂りにけり
あさぼらけひと目見しゆゑしばだたくくろきまつげをあはれみにけり
しんしんと雪ふりし夜にその指のあな冷たよと言ひて寄りしか
愁へつつ去にし子のゆゑ遠山にもゆる火ほどの我がこころかな
あはれなる女の瞼恋ひ撫でてその夜ほとほとわれは死にけり
念々にをんなを思ふわれなれど今夜もおそく朱の墨するも
死にたまふ母
ひろき葉は樹にひるがへり光りつつかくろひにつつしづ心なけれ
みちのくの母のいのちを一目見ん一目みんとぞただいそげる
吾妻やまに雪かがやけばみちのくの我が母の国に汽車入りにけり
死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる
のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳ねの母は死にたまふなり
星のゐる夜ぞらのもとに赤赤とははそはの母は燃えゆきにけり
ひた心目守らんものかほの赤くのぼるけむりのその煙はや
笹はらをただかき分けて行きゆけど母を尋ねんわれならなくに
はるけくも峡のやまに燃ゆる火のくれなゐと我が母と悲しき
山ゆゑに笹竹の子を食ひにけりははそはの母よははそはの母よ
- 斎藤茂吉(ウィキペディア)
- 赤光(ウィキペディア)
- 作家別作品リスト:斎藤茂吉(青空文庫)