みだれ髪
―与謝野晶子の恋愛を中心とした歌集―
与謝野晶子(1878~1942)の第一歌集。明治34年(1901)8月刊。
旧姓「鳳晶子」で出版された。収録作品399首のうち100余首は書き下ろし作品である。
官能をともなう恋愛作品を高らかに詠っており、近代短歌の一大源流をなした。
夜の帳にささめき尽きし星の今を下界の人の鬢のほつれよ
歌にきけな誰れ野の花に紅き否むおもむきあるかな春罪もつ子
髪五尺ときなば水にやはらかき少女ごころは秘めて放たじ
血ぞもゆるかさむひと夜の夢のやど春を行く人神おとしめな
椿それも梅もさなりき白かりきわが罪問はぬ色桃に見る
その子二十櫛にながるる黒髪のおごりの春のうつくしきかな
堂の鐘のひくきゆふべを前髪の桃のつぼみに経たまへ君
紫にもみうらにほふみだれ篋をかくしわづらふ宵の春の神
臙脂色は誰にかたらむ血のゆらぎ春のおもひのさかりの命
紫の濃き虹説きしさかづきに映る春の子眉毛かぼそき
紺青を絹にわが泣く春の暮やまぶきがさね友歌ねびぬ
まゐる酒に灯あかき宵を歌たまへ女はらから牡丹に名なき
海棠にえうなくときし紅すてて夕雨みやる瞳よたゆき
水にねし嵯峨の大堰のひと夜神絽蚊帳の裾の歌ひめたまへ
春の国恋の御国のあさぼらけしるきは髪か梅花のあぶら
今はゆかむさらばと云ひし夜の神の御裾さはりてわが髪ぬれぬ
細きわがうなじにあまる御手のべてささへたまへな帰る夜の神
清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき
秋の神の御衣より曳く白き虹ものおもふ子の額に消えぬ
経はにがし春のゆふべを奥の院の二十五菩薩歌うけたまへ
やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君
狂ひの子われに焔の翅かろき百三十里あわただしの旅
乳ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き
なにとなく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな
むねの清水あふれてつひに濁りけり君も罪の子我も罪の子
下京や紅屋が門をくぐりたる男かわゆし春の夜の月
くろ髪の千すぢの髪のみだれ髪かつおもひみだれおもひみだるる
いとせめてもゆるがままにもえしめよ斯くぞ覚ゆる暮れて行く春
春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳を手にさぐらせぬ
道を云はず後を思はず名を問はずここに恋ひ恋ふ君と我と見る
- みだれ髪(ウィキペディア)
- 与謝野晶子(ウィキペディア)
- 作家別作品リスト:与謝野晶子(青空文庫)