傘松道詠
―道元禅師一代の和歌集―
道元(1200~1253)の和歌集。一巻。
延享四年(1747)、面山瑞方(1683~1769)が編集して刊行。
寛元三年(1245)の初雪の歌から建長五年(1253)中秋までの詠歌60首を収める。
「傘松」とは越前大仏寺(後の永平寺)の山号「傘松峰」より採ったものである。『傘松祖師道詠』。
春は花夏ほとゝきす秋は月冬雪さえて冷しかりけり(本来面目)
おし鳥やかもめともまた見へわかぬ立る波間にうき沉むかな(即心即仏)
水鳥の遊くもかへるも跡たえてされとも道はわすれさりけり(応無所住而生其心)
世中にまことの人やなかるらんかきりも見へぬ大空の色(尽十方界真実人体)
春風にほころひにけり桃の花枝葉にのこるうたかひもなし(霊雲見桃花)
聞まゝにまた心なき身にしあらはをのれなりけり軒の玉水(鏡清雨滴声)
濁りなき心の水にすむ月は波もくたけて光とそなる(坐禅)
冬草も見へぬ雪野のしらさきはをのか姿に身をかくしけり(礼拝)
峯の色渓の響もみななから我釈迦牟尼の声と姿と(詠法華経)
草の庵に立ても居ても祈ること我より先に人をわたさむ(草庵雑詠)
山深み峯にも尾にもこゑたてゝけふもくれぬと日くらしそなく(草庵雑詠)
都には紅葉しぬらんおく山は夕へも今朝もあられ降けり(草庵雑詠)
夏冬のさかひもわかぬ越のやま降しら雪もなる雷も(草庵雑詠)
梓弓春の嵐に咲きぬらむ峯にも尾にも花匂ひけり(草庵雑詠)
あし引の山鳥の尾の長きよのやみちへたてゝくらしけるかな(草庵雑詠)
心とて人に見すへき色そなきたゝ露霜のむすふのみして(草庵雑詠)
心なき草木も秋は凋なり目に見たる人愁ひさらめや(草庵雑詠)
大空に心の月をなかむるもやみにまよひて色にめてけり(草庵雑詠)
春風に我ことの葉のちりけるを花の歌とや人の見るらん(草庵雑詠)
愚なる我は仏にならすとも衆生を渡す僧の身ならん(草庵雑詠)
山のはのほのめくよひの月影に光もうすくとふほたるかな(草庵雑詠)
花紅葉冬の白雪見しこともおもへは悔し色にめてけり(草庵雑詠)
朝日待草葉の露のほとなきにいそきな立そ野辺の秋風(無常)
世中は何にたとへん水鳥のはしふる露にやとる月影(無常)
また見んとおもひし時の秋たにも今宵の月にねられやはする(建長五年中秋)
- 道元(ウィキペディア)