往生要集
―地獄・極楽のイメージを最初に定着させた仏教書―
仏教書。三巻。源信著。永観三年(985)成立。
「厭離穢土」「欣求浄土」「極楽証拠」「正修念仏」「助念方法」「別時念仏」「念仏利益」「念仏証拠」「往生諸業」「問答料簡」の十門からなる。
種々の経論中から極楽往生の要文を抜粋し、念仏以外に極楽往生の法のないことを問答体で説いている。日本浄土教思想の最高の書であり、平安中期以降の文学や美術などに大きな影響を及ぼした。
日本人に地獄・極楽のイメージを最初に定着させた仏教書でもある。
それ往生極楽の教行は、濁世末代の目足なり。道俗貴賤、、誰か帰せざる者あらん。ただし顕密の教法は、その文、一にあらず。事理の業因、その行これ多し。利智精進の人は、いまだ難しと為さざらんも、予が如き頑魯の者、あに敢てせんや。(巻上)
当に知るべし、草庵に目を瞑すの間は、便ちこれ蓮台に跏を結ぶの程なるを。即ち弥陀仏の後に従ひ、菩薩衆の中にあり、一念の頃に西方極楽世界に生ずることを得ん。(巻上)
何故ぞ、刹那の苦果に於てすら、猶ほ堪へ難きを厭ひ、永劫の苦因に於いては、自ら恣に作らんことを欣ふや。
是故に当に知るべし、煩悩と菩提と体はこれ一なりといへども、時と用と異るが故に、染浄同じからざること、水と氷の如し。
また種と菓との如し。その体はこれ一なれども、時に随ひて用は異りなり。これに由りて、道を修する者は、本有の仏性を顕はし、道を修せざる者は、終に理を顕はすことなけむ。(巻上)
まさにこの念を作すべし。弥陀如来つねにわが身を照し、わが善根を護念し、わが機縁を観察したまひて、我もし機縁熟せば、時を失はずして引接せられんと。(巻中)
今、念仏を勧むるは、これ余の種々の妙行を遮るにあらず。ただこれ、男女貴賤、行住坐臥を簡ばず、時処諸縁を論ぜず、これを修するに難からず、乃至、臨終に往生を願ひ求むるに、その便宜を得ること念仏に如かず。(巻下)