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こころ
―エゴと倫理との葛藤を追及した夏目漱石の傑作―

こころ
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夏目漱石(1867~1916)の長編小説。大正3年(1914)4月20日から同年8月11日まで、東京・大阪の『朝日新聞』に連載。同年9月、岩波書店より刊行。

「先生と私」「両親と私」「先生と遺書」の三部からなる。
大学生の「私」は鎌倉の海水浴場で先生に出会う。東京に帰ってから先生の自宅をしばしば訪問するようになる。

しかし、世間から隠れるように暮らしている先生は容易に心を開かない。その謎の多い言動が、自殺した先生の遺書によって解明される。

恋のために友人を裏切り、自殺させた過去をもつ先生は、罪の意識ゆえに人間不信、自己不信にとりつかれていたのである。

人間のエゴと倫理との葛藤を徹底的に追及した傑作である。

「精神的に向上心のないものは、ばかだ」

私は二度同じ言葉をくり返しました。そうして、その言葉がKの上にどう影響するかを見つめていました。

「ばかだ」とやがてKが答えました。「僕はばかだ」

Kはぴたりとそこへ立ちまったまま動きません。彼は地面の上を見つめています。私は思わずぎょっとしました。私にはKがその刹那せつな居直いなおり強盗のごとく感ぜられたのです。

しかしそれにしては彼の声がいかにも力に乏しいということに気がつきました。私は彼の目づかいを参考にしたかったのですが、彼は最後まで私の顔を見ないのです。そうして、そろそろとまた歩き出しました。(下 先生と遺書 四十一)

この手紙があなたの手に落ちるころには、私はもうこの世にはいないでしょう。とくに死んでいるでしょう。(下 先生と遺書 五十六)

妻がおのれの過去に対してもつ記憶を、なるべく純白に保存して置いてやりたいのが私の唯一ゆいいつの希望なのですから、私が死んだあとでも、妻が生きている以上は、あなた限りに打ち明けられた私の秘密として、すべてを腹の中に仕舞しまって置いて下さい。(下 先生と遺書 五十六)