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恋愛論れんあいろん
―スタンダールによる恋愛論の古典―

フランスの作家スタンダール(1783~1842)著。
1822年刊。

恋愛において人は自分の心の中で相手をロマンチックに美化してしまう、と説き、そのような恋する者の心理を「ザルツブルクの小枝」に例えて「結晶作用」と名づけている。

枯れ枝が現実であるが、恋愛感情が現実をおおってしまう、この「ザルツブルクの小枝」のたとえ話はのちにたいへん有名になった。

しかし、本書は全体的に私的体験の告白書的な内容となっている。

自分を愛してくれていると確信のもてる女を、人はさまざまな美点でもって飾りたててたのしむ。自分の幸福をこまごまとくりひろげて無限の快とする。

ひいては、どのようにしてかはわからないが天から降ってきた、しかも今は確かにに自分が所有している崇高な所有物を誇張するにいたる。

恋する男の頭を、二十四時間働かせてごらんなさい。つぎのようなことが起る。

ザルツブルクの塩坑で、廃坑の奥深くへ冬枯れで葉の落ちた樹の枝を投げこみ、二、三ヵ月して引きだして見ると、それは、輝かしい結晶におおわれている。

山雀やまがらの足ほどの太さもない細い枝も、無数のきらめく輝かしいダイヤをつけていて、もうもとの枯枝を認めることはできない。

私が結晶作用というのは、つぎつぎに起るあらゆる現象から、愛するものの新しい美点を発見する精神作用のことである。(第二章 恋の芽生えについて)