仮面の告白
―三島由紀夫の半自伝小説―
三島由紀夫(1925~70)の小説。
1949年(昭和24)、河出書房刊。
男性に性的欲望を覚える性的異常者の告白形式で青年期まで記されている。
三島は最初の長編小説であり、半自伝小説でもある。初期の代表作。
のこる一人に私の視線が吸い寄せられた。二十二三の、粗野な、しかし浅黒い整った顔立ちの若者であった。彼は半裸の姿で、汗に濡れて薄鼠いろをした晒の腹巻を腹に巻き直していた。
たえず仲間の話に加わりその笑いに加わりながら、彼はわざとのように、のろのろとそれを巻いた。露わな胸は充実した引締った筋肉の隆起を示して、深い立体的な筋肉の溝が胸の中央から腹のほうへ下りていた。
脇腹には太い縄目のような肉の連鎖が左右から窄まりわだかまっていた。
その滑らかで熱い質量のある胴体は、うす汚れた晒の腹巻でひしひしときびしく締められながら巻かれていた。
日に灼けた半裸の肩は油を塗ったように輝やいていた。腋窩のくびれからはみだした黒い叢が、日差をうけて金いろに縮れて光った。
これを見たとき、わけてもその引締った腕にある牡丹の刺青を見たときに、私は情慾に襲われた。(第四章)
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