>   近現代   >   功名が辻

功名こうみょうつじ
―山内一豊と妻・千代の出世物語―

司馬遼太郎(1907~91)の長編小説。
昭和38年(1963)10月~40年(1965)1月、地方紙数紙に連載。
昭和40年刊。昭和49年改訂版刊行。

さしたる取り柄のない平凡な武士・山内一豊かずとよ(1546~1605)が、織田家の一家臣から土佐二十四万石の城主になるまでを描く。

内助の功を発揮する賢妻・千代を、著者独自の史観からたいへん魅力的な女性として描いている。

「千代はのんき育ちでございますから、さきざきのことは陽気に考えております。この戦さでまたお手柄をおたてくだされば、十人ぐらいは楽に養えますもの」

「一豊様、わたくしどもが、粗服を着、雑穀をたべ、それでも足りなければ、わたくし の小袖こそでを売ります」

「のんきだなあ。そんなことでいつまでやってゆけると思うのか」

 伊右衛門は、良家に育った千代をよほどのんき者だと思っているようだった。

 千代は、決してのんきなたちではない。彼女ののんきさは、母の法秀尼から教えられた演技である。

「妻が陽気でなければ、夫は十分な働きはできませぬ。夫に叱言こごとをいうときでも、陰気な口からいえば、夫はもう心がえ、男としての気おいこみをうしないます。

おなじ叱言こごとでも陽気な心でいえば、夫の心がかえって鼓舞こぶされるものです。陽気になる秘訣ひけつは、あすはきっと良くなる、と思いこんで暮らすことです」(姉川)