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ひととつきほう
―河盛好蔵による人付き合いについての好エッセー―

人とつき合う法
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フランス文学者・河盛かわもり好蔵よしぞう(1902~2000)著。昭和33年(1958)10月刊。

古今東西の格言や逸話を自在に引用しながら、親兄弟や師弟、友人、恋人とどのようにつき合っていったらよいかを平易に説いた好著。

目次
 イヤなやつ
 秀才気質
 つき合いのいい人
 名もない虫
 割勘について
 悪口について
 物くるる友
 他人の秘密
 話題について
 酒の飲みかた
 時間を守ること
 言葉づかい
 二人の友
 中身と額縁
 古い友、新しい友
 礼儀について
 虫のいどころ
 おせじについて
 父親とのつき合い
 師弟のつき合い
 兄弟のつき合い
 親友について
 ライヴァルについて
 友達のできない人
 よき隣人
 母親について
 ガールフレンド
 遠来の客
 金銭について
 旅の道づれ
 悪友に手を出すな
 約束について
 エスプリとユーモア
 喧嘩について
 紙上でのつき合い

 まず酒を飲むときには、酒を飲む以外の目的をできるだけ持たないことが望ましい。よく、相手をしたたかに酔っぱらわせて精神が朦朧もうろうとしたときに、商談などを有利に運ばせようとする向きがあるようだが、一緒に酒を飲みながら、自分は酔わずに相手だけを酔わそうとするほど衛生に悪いことはないそうである。

そんな人は大てい脳出血で死んでしまう。酒の使い方が邪道なために天罰を受けたのである。それに第一卑怯ひきょうである。相手の精神が朦朧としてきたら、こちらも一緒に朦朧となって雌雄しゆうを決すべきである。

したがって酒の強い人は、酒の弱い人よりもピッチをあげて飲むべきで、相手にハンディキャップをつけてはいけない。双方とも同じ程度に酔っぱらったら、お互に、酒がさめてもきまりの悪い思いをしなくともすむ。相手が酔わずに、こちらの酔態を逐一ちくいち覚えていられてはたまらない。

したがって、酒席のことは、その場かぎりとして、忘れてしまうこと、たとえ覚えていても、忘れた顔をすることがエチケットであろう。

 素面しらふのときには言えないことを、酒の力を借りて言うことも禁物である。よく後輩が、酒に酔って先輩にからんでいるのを見ることがあるが、あれは見苦しいし、酒が覚めてからの当人の気持を考えると、こちらの酒までまずくなる。

もっとも世間には、意識して酒席で上役や先輩に適当にからんで自分を売り込み、「あいつはなかなか見どころのある男だ」と思われようとする人間も少なくない。そういう人間の魂胆を見ぬくことが上役たる者の責任であろう。

 同様に、酒を飲むとすぐ先輩風を吹かせて威張ったり、訓戒を垂れたりする人間も鼻持ちがならない。そんな人間と酒を飲めば、きっと悪酔いをする。そういう相手に対してはこちらもからめば五分五分というわけであるが、まず敬して遠ざけるがよろしい。

 酒に酔うと、いやに上機嫌になって、見さかいなく、見知らぬ人にまで握手を求めたり親愛の情を表したりする人がいるものだが、あれもおっちょこちょいに見えて、感心できない。第一他人迷惑である。ドイツの格言に、「酒がつくり出した友情は、酒のように、ひと晩しかきかない」というのがある。思い当る人も多いであろう。(酒の飲みかた「酒の邪道」)