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道をひらく
―松下幸之助の短編随想集―

松下幸之助(1894~1989)の短編随想集。
昭和43年(1968)5月、PHP研究所から刊行。

本書はPHP研究所の機関紙「PHP」の裏表紙に連載したエッセーをまとめたものであり、短編121篇が載せられている。

「運命を切りひらくために」「日々を新鮮な心で迎えるために」「ともによりよく生きるために」「みずから決断を下すときに」「困難にぶつかったときに」「自信を失ったときに」「仕事をより向上させるために」「事業をよりよく伸ばすために」「自主独立の信念をもつために」「生きがいある人生のために」「国の道をひらくために」の11の項からなる。

人生における教訓的なものから、仕事や経営について、さらに国家のあり方についてまで幅広く言及されている。

本書は素直に生きることや謙虚の大切さなどについて繰り返し説かれており、400万部を超える大ベストセラーとなった。

いま立っているこの道、いま歩んでいるこの道、ともかくもこの道を休まず歩むことである。自分だけしか歩めない大事な道ではないか。自分だけに与えられているかけがえのないこの道ではないか。……たとえ遠い道のように思えても、休まず歩む姿からは必ず新 たな道がひらけてくる。深い喜びも生まれてくる。(道)

逆境は尊い。しかしまた順境も尊い。要は逆境であれ、順境であれ、その与えられた境涯に素直に生きることである。謙虚の心を忘れぬことである。
素直さを失ったとき、逆境は卑屈を生み、順境は自惚うぬぼれを生む。(素直に生きる)

いくつになってもわからないのが人生というものである。世の中というものである。それなら手さぐりで歩むほか道はあるまい。……わからない世の中を、みんなに教えられ、みんなに手を引かれつつ、一歩一歩踏みしめて行くことである。謙虚に、そして真剣に。(手さぐりの人生)

人間にとって、出処進退その時を誤らぬことほどむつかしいものはない。(自然とともに)

自分の周囲にある物、いる人、これすべて、わが心の反映である。わが心の鏡である。すべての物がわが心を映し、すべての人が、わが心につながっているのである。……もうすこし、周囲をよく見たい。もうすこし、周囲の人の声に耳を傾けたい。この謙虚な心、素直な心があれば、人も物もみなわが心の鏡として、自分の考え、自分のふるまいの正邪せいじゃが、そこにありのままに映し出されてくるであろう。(心の鏡)

長所と短所と――それは人間のいわば一つの宿命である。その宿命を繁栄に結びつけるのも貧困に結びつけるのも、つまりはおたがいの心くばり一つにかかっているのではなかろうか。(長所と短所)

どんなによいことでも、一挙に事が成るということはまずあり得ない。また一挙に事を決するということを行なえば、必ずどこかにムリを生じてくる。すべて事は、一歩一歩成就じょうじゅするということが望ましいのである。(根気よく)

わからなければ、人に聞くことである。おのれのカラにとじこもらないで、素直に謙虚に人の教えに耳を傾けることである。(思い悩む)