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ひとうごかす
―デール・カーネギーによる人間関係の古典―

デール・カーネギー(1888~1955)著。
1936年刊行。邦訳は1958年、山口博訳。

原題は “How to Win Friends and Influence People”。
創元社より刊行。1981年に改訂版が出版された。

著者のデール・カーネギーは米国ミズーリ州の農家に生まれ、州立の学芸大学を卒業後、教師、セールスマン、行商人など、雑多な職業を経験した。のちにYMCAの弁論術講座を担当、やがてデール・カーネギー研究所を設立し、人間関係研究の先覚者となった。

本書は、「人を動かす三原則」「人に好かれる六原則」「人を説得する十二原則」「人を変える九原則」など、人間関係についての原則を豊富な逸話を交えて紹介しており、自己啓発本の古典として世界的ロングセラーとなっている。

1.批判も非難もしない。苦情もいわない。
2.率直で、誠実な評価を与える。
3.強い欲求を起させる。
1.誠実な関心を寄せる。
2.笑顔で接する。
3.名前は、当人にとって、最も快い、最も大切なひびきを持つことばであることを忘れない。
4.聞き手にまわる。
5.相手の関心を見抜いて話題にする。
6.重要感を与える――誠意を込めて。
1.議論に勝つ唯一の方法として議論を避ける。
2.相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない。
3.自分の誤りをただちにこころよく認める。
4.おだやかに話す。
5.相手が即座に“イエス”と答える問題を選ぶ。
6.相手にしゃべらせる。
7.相手に思いつかせる。
8.人の身になる。
9.相手の考えや希望に対して同情を持つ。
10.人の美しい心情に呼びかける。
11.演出を考える。
12.対抗意識を刺激する。
1.まずほめる。
2.遠まわしに注意を与える。
3.まず自分の誤りを話した後、注意を与える。
4.命令をせず、意見を求める。
5.顔を立てる。
6.わずかなことでも、すべて、惜しみなく、心からほめる。
7.期待をかける。
8.激励して、能力に自信を持たせる。
9.喜んで協力させる。
1.口やかましくいわない。
2.長所を認める。
3.あら探しをしない。
4.ほめる。
5.ささやかな心づくしを怠らない。
6.礼儀を守る。
7.正しい性の知識を持つ。

人を動かす三原則
およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない。(第一章 盗人にも五分の理を認める)

優れた心理学者ウィリアム・ジェームズは、「人間の持つ性情のうちで最も強いものは、他人に認められることを渇望する気持である」という。ここで、ジェームズが希望するとか要望するとか、待望するとかいうなまぬるいことばを使わず、あえて渇望するといっていることに注意されたい。(第二章 重要感を持たせる)

自動車王ヘンリー・フォードが人間関係の機微にふれた至言を吐いている――
「成功に秘訣というものがあるとすれば、それは、他人の立場を理解し、自分の立場と同時に、他人の立場からも物事を見ることのできる能力である」(第三章 人の立場に身を置く)

人に好かれる六原則
他人に示す関心は、人間関係の他の原則と同様に、必ず心底からのものでなければならない。関心を示す人の利益になるだけでなく、関心を示された相手にも利益を生まねばならない。一方通行ではなく、双方の利益にならなくてはいけない。(第一章 誠実な関心を寄せる)

笑顔など見せる気にならない時は、どうすればよいか。方法は二つある。まず第一は、無理にでも笑ってみることだ。ひとりでいる時なら、口笛を吹いたり、鼻うたを歌ったりしてみる。幸福でたまらないようなふうにふるまうのである。すると、ほんとうに幸福な気持になるから妙だ。(第二章 笑顔を忘れない)

幸不幸は、財産、地位、あるいは職業などによって決まるものではない。何を幸福と考え、また不幸と考えるか――その考え方が、幸不幸の分かれ目なのである。たとえば、同じところで同じ仕事をしている人が二人いるとする。この二人は、大体同じ財産と地位を持っているにもかかわらず、一方は不幸で他方は幸福だというような場合がよくある。なぜか? 気の持ち方が違うからだ。(第二章 笑顔を忘れない)

フランクリン・ルーズヴェルトは、人に好かれるいちばん簡単で、わかりきった、しかもいちばん大切な方法は、相手の名前を覚え、相手に重要感を持たせることだということを知っていたのである。(第三章 名前を覚える)

あなたの話し相手は、あなたのことに対して持つ興味の百倍もの興味を、自分自身のことに対して持っているのである。中国で百万人の餓死する大飢饉が起っても、当人にとっては、自分の歯痛のほうがはるかに重大な事件なのだ。首に出来たおできのほうが、アフリカで地震が四十回起ったよりも大きな関心事なのである。人と話をする時には、このことをよく考えていただきたい。(第四章 聞き手にまわる)

「人と話をする時は、その人自身のことを話題にせよ。そうすれば、相手は何時間でもこちらの話を聞いてくれる」――これは大英帝国の史上最高に明敏な政治家の一人、ディズレリーのことばである。(第六章 心からほめる)

人を説得する十二原則
議論は、ほとんど例外なく、双方に、自説をますます正しいと確信させて終るものだ。
議論に勝つことは不可能だ。もし負ければ負けたのだし、たとえ勝ったにしても、やはり負けているのだ。なぜかといえば――仮に相手を徹底的にやっつけたとして、その結果はどうなる? ――やっつけたほうは大いに気をよくするだろうが、やっつけられたほうは劣等感を持ち、自尊心を傷つけられ、憤慨するだろう。
 ――「議論に負けても、その人の意見は変らない」(第一章 議論を避ける)

われわれは、自分の非を自分で認めることはよくある。また、それを他人から指摘された場合、相手の出方が優しくて巧妙だと、あっさり兜を脱いで、むしろ自分の率直さや腹の太さに誇りを感じることさえある。しかし、相手がそれをむりやりに押しつけてくると、そうはいかない。(第二章 誤りを指摘しない)

自分が悪いと知ったら、相手にやっつけられる前に自分で自分をやっつけておいたほうが、はるかに愉快ではないか。他人の非難よりも自己批判のほうがよほど気が楽なはずだ。
自分に誤りがあるとわかれば、相手のいうことをさきに自分でいってしまうのだ。そうすれば、相手には何もいうことがなくなる。十中八、九まで、相手は寛大になり、こちらの誤りを許す態度に出るだろう。(第三章 誤りを認める)

相手の心が反抗と憎悪に満ちている時は、いかに理を尽しても説得することはできない。(第四章 おだやかに話す)

相手は間違っているかも知れないが、彼自身は、自分が間違っているとは決して思っていないのである。だから、相手を非難しても始まらない。非難は、どんな馬鹿者でもできる。理解することに努めねばならない。賢明な人間は、相手を理解しようと努める。(第八章 人の身になる)

われわれの人となりには、自分が手を下してつくった部分は、ほんのわずかしかない。したがって、われわれの接する相手が、どんなにいら立っていたり、偏屈だったり、わからずやだったとしても、その責めをすべて本人に帰するわけにはいかない。気の毒だと思ってやるべきだ。同情してやることだ。そしてこう考えるのだ。
「もし神さまのお恵みがなかったら、この相手が、わたし自身の姿なのだ」(第九章 同情を持つ)

人を変える九原則
まず相手をほめておくのは、歯科医がまず局部麻酔をするのによく似ている。もちろん、あとでガリガリやられるが、麻酔はその痛みを消してくれる。(第一章 まずほめる)

人に小言をいう場合、謙虚な態度で、自分は決して完全ではなく、よく失敗をするがと前置きをして、それから相手の間違いを注意してやると、相手はそれほど不愉快な思いをせずにすむものだ。(第三章 自分のあやまちを話す)

命令を質問のかたちに変えると、気持よく受け入れられるばかりか、相手に創造性を発揮させることもある。命令が出される過程に何らかの形で参画すれば、だれでもその命令を守る気になる。(第四章 命令をしない)

相手の顔を立てる! これは大切なことだ。しかも、その大切さを理解している人は果して幾人いるだろうか? 自分の気持を通すために、他人の感情を踏みにじって行く。相手の自尊心などは全く考えない。人前もかまわず、使用人や子供を叱りとばす。もう少し考えて、一こと二こと思いやりのあることばをかけ、相手の心情を理解してやれば、そのほうが、はるかにうまく行くだろうに!(第五章 顔をつぶさない)

たとえ自分が正しく、相手が絶対に間違っていても、その顔をつぶすことは、相手の自尊心を傷つけるだけに終る。あの伝説的人物、航空界のパイオニアで作家のサンテグジュペリは、次のように書いている。
「相手の自己評価を傷つけ、自己嫌悪におちいらせるようなことをいったり、したりする権利はわたしにはない。大切なことは、相手をわたしがどう評価するか、ではなくて、相手が自分自身をどう評価するか、である。相手の人間としての尊厳を傷つけることは、犯罪なのだ」(第五章 顔をつぶさない)

批判によって、人間の能力はしぼみ、励ましによって、花開く。(第六章 わずかなことでもほめる)

子供や夫や従業員を、馬鹿だとか、能なしだとか、才能がないとかいってののしるのは、向上心の芽を摘み取ってしまうことになる。その逆を行くのだ。大いに元気づけて、やりさえすれば容易にやれると思い込ませ、そして、相手の能力をこちらは信じているのだと知らせてやるのだ。そうすれば相手は、自分の優秀さを示そうと懸命に頑張る。(第八章 激励する)

幸福な家庭を作る七原則
男性は五年前に自分が着ていた服や下着のことを思い出せないし、また思い出そうともしない。だが、女性は違う。男性は、よくこのことを理解すべきだ。フランスの上流社会では、男性は婦人の服装について一晩に何度もほめるものと、子供のころから教えられている。まことに賢明である。(第四章 ほめる)

女性は、誕生日や記念日を重視する。その理由は――これが、男性にはわからない。普通、男は、あまり多くの日付を覚えなくても、けっこう暮らして行ける。だが、忘れてならない日も若干はある。たとえば、1492年(コロンブスのアメリカ大陸発見)と1776年(アメリカの独立宣言)、それに、妻の誕生日と自分たちの結婚記念日だ。初めの二つは、場合によっては忘れてもよかろう。しかし、あとの二つは絶対に忘れてはならない!(第五章 ささやかな心づくしを怠らない)

妻に対するささやかな心づくしの価値を軽く見すぎている男性が世の中には多すぎる。結婚の幸福は、些細な心づくしの集積によって得られるのだ。この事実に気づかない夫婦は、不幸な結婚生活を送らねばならないだろう。(第五章 ささやかな心づくしを怠らない)

礼儀は、いわば結婚生活の潤滑油である。(第六章 礼儀を守る)

たとえ平凡でも、幸福な家庭生活を味わっている者のほうが、独身の天才よりも、数等幸せだ。ロシアの文豪ツルゲーネフはいった――
「わたしのために夕食の支度をして待っていてくれる女性がどこかにいたら、わたしは才能のすべてを投げすてても悔いない」(第六章 礼儀を守る)