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様々さまざまなる意匠いしょう
―小林秀雄の文壇デビュー評論―

小林秀雄(1902~1983)の文芸評論。
昭和4年(1929)、総合雑誌『改造』の懸賞評論に応募、二位となる(一位は宮本顕治「敗北の文学」)。

5章からなり、1~2章では著者の批評原理、3~5章ではマルクス主義文学を批判し、同時代の文学批判にも及んでいる。

本文中の「批評とはついに己れの夢を懐疑的に語る事ではないのか!」が著者の根本的な批評原理となっている。

 吾々われわれにとって幸福な事か不幸な事か知らないが、世に一つとして簡単に片付く問題はない。

遠い昔、人間が意識と共に与えられた言葉という吾々の思索の唯一の武器は、依然として昔乍らの魔術を止めない。

劣悪を指嗾しそうしない如何なる崇高な言葉もなく、崇高を指嗾しそうしない如何なる劣悪な言葉もない。

而も、し言葉がその人心じんしん眩惑げんわくの魔術を捨てたら恐らく影に過ぎまい。(1)