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十訓抄じっきんしょう
―鎌倉中期の教訓説話集―

鎌倉中期の教訓説話集。三巻。
六波羅二﨟左衛門ろくはらじろうざえもん入道の作とされるが未詳。建長四年(1252)成立。

幼少年用の啓蒙書として和漢の説話約二百八十編を以下の十の徳目に分類して収めている。

  • 第一 人に恵を施すべき事(心操振舞を定むべき事)
  • 第二 憍慢を離るべき事
  • 第三 人倫を侮るべからざる事
  • 第四 人の上の多言等を誡むべき事
  • 第五 朋友を撰ぶべき事
  • 第六 忠直を存すべき事(忠信廉直旨を存すべき事)
  • 第七 思慮を専らにすべき事
  • 第八 諸事を堪忍すべき事
  • 第九 懇望を停むべき事(怨望を停むべき事)
  • 第十 才能を庶幾すべき事(才能芸業を庶幾すべき事)

そもそも本書の目的が教訓啓蒙書であったものの、後半は話のおもしろさが優先されている。王朝文化へのあこがれをもちつつも、乱世の現実をどう処していくかといった処世術の趣もある。「じっくんしょう」とも読む。

夫世にある人、ことわざしげきふるまひにつけて、たかきいやしき品をわかたず、賢は徳おほく、愚なるは失おほし。而に、今なにとなく聞見るところの、昔今の物語を種として、よろづのことの葉の中より、聊その二のあとを詮としとりて、吉方をばこれをすゝめ、悪筋をばこれをいましめつゝ、いまだ此道をまなびしらざらむ少年のたぐひをして、心をつくるたよりとなさしめんがために、こゝろみに十段の筋をわかちて、十訓抄と名づく。(序)

さきに申たる賢人のおとゞ、他事の賢には似ず、女事に忍び給はざりけり。北対の前に井あり。下女等、清涼水と名付て、集てくみけり。其中に少年の女を見て、閑所に招寄て構へられけり。宇治殿このことを聞給て、侍どころの雑仕の、みめよきを撰て、水を汲につかはす。件の女におしへさせ給けるやう、「水くまむに招引あらば、其後、水桶をばすてゝ参るべし」と仰られけり。はたして案の如く招寄たまひけり。 後日、宇治殿へ参られたりけるに、公事言談了後、「先日の侍どころの水桶、今は返給はるべし」と仰られたりければ、大臣赤面して申事なくて出られけり。賢人なれども、振舞に付て、はかられ給にけり。 あるとき此殿の亭の前を、事よろしき女のとおりけるを、門より走りいでゝ、かきいだき給けるに、ある人又通り逢て、くるまよりおりて、「あれは賢人の御振まひか」といひ懸たりければ、「女事に賢人なし」と答て、にげ入たまひにけり。(女事に賢人なし)